強風が続いたGW休暇の最終日、
まともに釣りが出来なかったストレスを発散しに、
いつもはやらない夕マヅメを狙って地元の海へ。
2時間ほど前に次男が友人と釣りに行くと出掛けたので、
どの位上手になったのか、ちょっと様子を見たかったというのもあった。
次男がまだ中学生の頃、
友人たちとのイロイロで学校へ行けない時期があった。
無理に行かせないようにと見守りつつも、
親として何をしてあげられるだろうと悩んだ時期でもあった。
なるべく早く帰ってとりとめのない話をしたり、
お金も無いのに二人でカウンターで寿司を食べてみたり。
でもそういうことではなくて、
人と接することの素晴らしさを忘れないことが出来ないかなと考えて、
僕は彼に釣り竿を買ってあげることにした。
『M屋さんにシーバスロッド買いに行こうか?』
『竿?』
『そうそう、昼間時間を持て余したら釣りに行けばいいよ』
『でも、M屋さんで買うの?』
彼はちょっと意外そうな顔をして僕に聞いた。
M屋さんは海の近くの小さな個人店だ。
竿を買うなら大きなチェーン店の方が安いし、
ネットで最安値を確認して買うことだって出来る。
なぜM屋さんで買うのか、彼はそれが気になったみたいだった。
『M屋さんにはね、店のおっちゃんを中心にした
釣り人たちのコミュニティがあるんだ。
何が釣れているとか、仕掛けやルアーは何がいいとかね。
それはただ商品をレジに持って行くだけのチェーン店には無いものなんだよ。
だから分からないことは素直に聞いてみるといい。
多分皆、しゃべりだしたら終わらないくらい丁寧に教えてくれるから』
私は竿をカウンターに持って行き、
『息子なんです。ご面倒掛けますが、色々教えてあげてください』
と頭を下げた。
それから2週間ほどして、
次男は私のあげた竿とは全く関係なく、
友達の励ましのお陰で学校へ戻ることが出来た。
玄関を出る彼の顔を見て、僕はちょっと泣きそうになった。
その後も彼は釣りを続けている。
地元のおじさんに、西湘バイパスの道路灯が点く時間になるとアジが釣れる話や、
地元で有名な釣り師さんから自作のルアーをもらったことや
M屋さんでプロアングラーの村越正海さんに会ったと、
興奮気味に電話を掛けてきたこともあった。
彼はM屋さんで、人と関わる素晴らしさを体験してくれていた。
西湘バイパスの道路灯が点く。
息子が狙っているアジが釣れる時間の始まりであり、
私の釣りの時間とGWのお休みが終わりの合図だ。
『アジ、これからだろ?夕飯の支度もあるから先に帰るね』
『じゃあね~』
もうイッパシの釣り人になった息子の姿を思い返しつつ、
もう子育ても終わりかなと、
僕はちょっと灌漑にふけりながら夜の砂浜を歩いた。